個体群動態論:Malthusモデル

個体群動態論:Malthusモデル

First written: 3 Feb 2019; last update: 31 Mar. 2020


1. はじめに

この記事では、個体数の時間発展モデルの中で最も単純な指数関数的成長を表すMalthusモデルを紹介する。このモデルは、微分方程式の最も基本的な部分についての知識のみによって構成できることから、生物現象に限らず、他の様々な数理現象について学ぶ上で必要な基本的知識に馴染むのに適したモデルにもなる。

微分および積分については、それぞれリンク先の記事で簡単に説明しているし、その他必要な数学的知識は記事中で説明する。変数分離法によって簡単な微分方程式を解くことができるという人にとっては、数理的な知識については学ぶことはほとんどないと思われる。

2. 離散的Malthusモデル

個体数$N$の生物集団が、その数に比例して増殖していくモデルを考える。例えばペトリ皿中のバクテリアなどを想像しよう。繁殖時間を離散的(連続的ではなくとびとびに)に取り、初期段階の個体数を$N_0$とする。すると、時間ステップが1つ進み繁殖が行われた後の個体数の増加は、個体数に繁殖率$b$をかけて$bN_0$となる。一方、時間ステップ中に死んでしまう個体もありうるから、死亡率$d$を個体数にかけた$bN_0$を差し引く。すると正味の増加分は$(b-d)N_0$と表せる。正味の成長率を$m=b-d$と書けば、1ステップ後の個体数$N_1$は \begin{align} \label{eq1} N_{1} = N_0 + mN_0 = (1+m)N_0 \end{align} と表せる。つまり、もともとの数$N_0$に、$N_0$の個体が$m$の割合で増加した分を足したのが、第$1$ステップ目の数$N_1$になるということである。増殖率を表す係数$m$はMalthus係数と呼ばれる。

この式は、任意の時間ステップ$i$に一般化できる。ある時間ステップ$i$のときの個体数を$N_i$は、前のステップの個体数$N_{i-1}$を用いて \begin{align} \label {eq2} N_{i} = N_{i-1} + mN_{i-1} = (1+m)N_{i-1} \end{align} と表せる。このように、離散化された関数の差の関係を表す方程式を差分方程式という。続いて、(\ref{eq2})の右辺に$N_{i-1}=(1+m)N_{i-2}$を代入すれば \begin{align} N_{i} = (1+m)^2N_{i-2} \end{align} となり、この右辺にまた$N_{i-2}=(1+m)N_{i-3}$を代入して…と繰り返せば 任意の時間ステップ$i$における個体数を、初期個体数$N_0$を用いて \begin{align} \label{discsol} N_i = (1+m)^i N_0 \end{align} と表せることがわかる。

3. 連続的Malthusモデル

バクテリアは数分から数十分おきに増殖する。もし数日間など、十分な時間に渡って観察すれば、その増殖は連続的なものとみなせるだろう。また、バクテリアのような繁殖が速い生物だけでなくとも、数理的には、個体数を連続的なものとみなしてしまった方が扱いやすい。そのため、ここでは問題を連続化し、前節の差分方程式(\ref{eq2})を微分方程式に変換する。この場合、個体数は連続的な値を取る時間$t$の関数$N(t)$となる。ある時刻$t_0$において$N(t_0)$であった個体数が、時間幅$\Delta t$の間に増殖して増加する分は、元々の個体数と、その時間幅に比例すると考えられるため、$mN(t_0)\Delta t$と置ける。すると、$\Delta t$時間後の個体数$N(t_0+\Delta t$)は \begin{align} N(t_0 + \Delta t) = N(t_0) + mN(t_0)\Delta t \end{align} と書ける。右辺一項目を左に移行し、全体を$\Delta t$で割ると \begin{align} \frac{N(t_0 + \Delta t) - N(t_0)}{\Delta t} = mN(t_0) \end{align} となる。ここまではまだ方程式は離散的で、$\Delta t=1$とするか、$m'\equiv m\Delta t$と係数を定義し直すなどすれば、(\ref{eq2})と一致する。しかし、連続的な変化を測定するには、各瞬間ごとの増殖率が知りたいため、$\Delta t$を限りなく小さな値に取る。その操作は以下のように表される: \begin{align} \frac{dN(t_0)}{dt} \equiv \lim_{\Delta \to 0} \frac{N(t_0 + \Delta t)-N(t_0)}{\Delta t} \end{align} 改めてこれが微分と呼ばれる操作であり、単に変化率(この場合、時間に対する個体数の変化率)を連続的に記述したものに過ぎない。これは任意の時刻で成り立つから \begin{align} \label {M eq} \frac{dN(t)}{dt}= mN \end{align} という方程式が得られる。このように微分を含んだ式を微分方程式という。

(\ref{M eq})は最もシンプルな微分方程式の例の一つで、解、すなわち知りたい任意の時刻$t'$の個体数$N(t')$も、変数分離法という手法によって容易に求めることができる。まず式(\ref{M eq})を \begin{align} \frac{dN}{N}= mdt \end{align} と変形する。こうすることで、左辺は$N$のみの、右辺は$t$のみのシンプルな関数になるため、両辺とも容易に積分が可能になる。初期時刻$t=0$から$t=t'$まで \begin{align} \label {M int} \int_{N(0)}^{N(t')} \frac{dN}{N}=\int_0^{t'} mdt \end{align} と積分するが、Malthus係数は定数なので右辺は$mt'$と計算できる。一方左辺は \begin{align} \int_{N(0)}^{N(t')} \frac{dN}{N}=\left[\ln{N(t)} \right]^{N(t')}_{N(0)}=\ln{N(t')}-\ln{N(0)} \end{align} となるから \begin{align} \ln{N(t')}-\ln{N(0)} = mt' \end{align} であり、左辺二項目を右に移行し \begin{align} \ln{a} =b \leftrightarrow& a= e^b, \\ e^{a+b}=& e^a e^b \\ \end{align} の関係を使うと \begin{align} \ln{N(t')}=\ln{N(0)}+ mt' \to N(t') = e^{\ln{N(0)}+ mt'} = e^{\ln{N(0)}} e^{mt'} \end{align} となり、最後に$e^{\ln{a}}=a$の関係を使うことで、解 \begin{align} \label{expsol} N(t) = N(0)e^{mt} \end{align} が得られる。最後に$t'$を$t$と記した。指数関数の性質$d e^{ax}/dx=ae^{ax}$から(\ref{M eq})のような形の方程式の解が指数関数で表されるということは即座にわかるが、もっと複雑な微分方程式でも変数分離法によって解けることがあるため、まだ微分方程式の扱いに馴染みのない人は、良い練習問題と思って、Malthus方程式のような単純な方程式を一度実際に手を動かして変数分離法を使って解いてみると良いだろう。 下の図で、連続解(\ref{expsol})を、離散解(\ref{discsol})と合わせてプロットしてある。

$N_0=1$、$m=0.1$、$0.3$および$0.5$とした場合の連続(continuous)解(\ref{expsol})と離散(discrete)解(\ref{discsol})。

ここでは、集団サイズにかかわらず、常にその数に比例して増殖するというモデルを考えたが、現実に成長率は集団サイズに依存するのが通常である。次は、そういった密度効果を含んだ基本的なモデルであるロジスティック成長モデルについて説明する。

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