ビーガンFAQ:ビーガン食と健康
ビーガンFAQ:ビーガン食と健康
By Kei SingletonLast updated: 29 March. 2021
■はじめに
このページでは、『ビーガンFAQ - よくある質問と返答集』における、以下の問いに対する回答を提示する。3.菜食は健康に悪いのでは?
┗菜食で命を落とした子供がいると聞いたけど?
┗ビタミンB12は?/サプリメントが必要な食事は不完全ではないか?
┗タンパク質は?
以下のリンク先からpdf版がダウンロード可能である。
2023年4月時点で,基本的な内容はウェブ版と同様であるが,ウェブ版の更新は煩わしいので,更新が滞っている。 最終的にはウェブ版は廃止するかもしれない。 そうした事情からpdf版の方を推奨する。
■菜食は健康に悪いのでは?
▶栄養学的に問題ない。
健康なビーガンダイエットには、肥満、心臓病、高血圧、高血圧コレステロール値、2型糖尿病、特定の種類の癌のリスクを減少させるなど、多くの健康上の利点がある。
食品やサプリメントから、十分なタンパク質、鉄、亜鉛、カルシウム、ビタミンDとB12、オメガ3脂肪を摂取する計画が必要となる場合もある。健康なビーガンダイエットは、妊娠中娠、授乳中、あるいは高齢期を含め、人生のあらゆるステージで必要なすべての栄養素を満たすことができる。
完全菜食すなわちビーガンダイエットを含め、適切に計画されたベジタリアンダイエットは、健康面でも、栄養面でも適当であり、特定の病気の予防と治療において、健康上の利益をもたらすこともできるというのが、米国栄養士会の見解である。
念のためだが、ダイエット(diet)とは日常の食事様式のことであり、いわゆる和製英語の減量を目的とした短期的な食事制限のことではないことには注意しよう。
また、Springmannら(2016)の研究では、プラントベース食をグローバルに適用した際のメリットを定量化している:
- グローバルなビーガン食の普及では、2050年までに800万人の命を救うことになると研究は示している。
- ベジタリアン食の場合では730万人。
- また、食生活の変化により、ヘルスケアの支出と生産力の低下を減らすことで、毎年1兆ドルの支出を減らせる。
- 失われる命の経済価値を考慮すれば、年間30兆ドルにも及ぶ。これには気候変動の影響で起こりうると考えられる異常気象を防ぐことによる経済的利益は含まれていない。
続きは、次の項目への回答を参照。
┗菜食で命を落とした子供がいると聞いたけど?
▶それらのケースは、菜食であることが原因ではなく、単純に標準的な菜食としても不十分なものであることが原因であり、菜食に限って生じる問題ではない。実際に、そのようなケースが生じる割合が、ビーガンの子供において著しく高いというデータも存在しない。 そういった印象が広まるのは、センセーショナルな見出しでリテラシーのない読者を誘い込もうとするメディアのビジネスが原因であるにすぎない。
実際、上で引用した栄養士会に加え、米国小児科学会(American Academy of Pediatrics; AAP)の医学士たちも、菜食を含めた植物性中心の食事が子供にとっても良いものかという質問に対し、公式にこう答えている:
植物性中心の食事は、あなたの家族にとって有益なものとなりえるでしょう。
菜食を含めた植物性中心の食事には、心臓病や糖尿病あるいは高血圧のリスクを下げるといった健康的利益があることが示されてきました。
ついでにいうと、食事だけでなく、子供の健康を考える上で無視できないのが地球環境の悪化である。 このことも考慮し、AAPの回答では、こう付け加えられている:
より植物性中心の食事に切り替えることは、健康的だけでなく、環境にとっても利益になります。 肉や乳製品は、より多くの水や土地を必要とし、気候変動を引き起こす温室効果ガス排出量により多くの寄与をするためです。
動物搾取と環境破壊の関係については、『食べるものに困ってる人のことを考えたら?』および『全員がビーガンになったら持続不能では?』への回答も参照。
反対に、日本含めた裕福な国で問題となっているのが、子供の肥満増加だ。 この原因として、小児栄養学者はこう述べている:
三大栄養素の摂取比率の推移を追跡しますと、1980年代から糖質摂取の減少と脂肪摂取の増加が進行しています。また、たんぱく質特に動物性たんぱく質摂取の増加も顕著です。同様の傾向が、日本人全体の三大栄養素平均摂取比率にも認められております。脂肪および動物性たんぱく質摂取増加と糖質の減少と言う日本人の食習慣の変化が、小児肥満増加に影響を与えていることは明らかだと思われます。
こうした食習慣が原因で、近年小児の2型糖尿病あるいは小児期の食生活を原因とする成人の糖尿病が増加している。 果たして、非難されるべき食生活を強いているのは、ビーガンかノンビーガンか、割合としてはどちらが多いだろうか。 いずれにしても、これらの専門家の意見を考慮すれば、ビーガン食のみがノンビーガンの食事法と比較し、一般的により不健康であるとみなすことは、単なる誤った印象に基づく信念にすぎないことははっきり結論付けられる。
▶ Vegan Sidekickの回答を参照
┗ビタミンB12は?/サプリメントが必要な食事は不完全ではないか
▶B12は唯一ビーガンが、サプリメントや添加食品から摂取することを推奨される栄養素であるが、添加食品やサプリメントを含んだ食事法が問題となるわけではない。事実、あなたが日々口にしている製品のパッケージを見てみたら、普段意識しないだけで、実に多くの製品が人工的に栄養素を添加されているものだとわかるだろう。添加食品を取らないために、加工食品を避けて生活する方が困難と言える。
また、現代の多くの人が従っている食事法では一部の栄養素が不足しがちであるため、サプリメントなどで補う必要があるという呼びかけもあり、ビーガンでない多くの人が日常的にサプリメントを摂取している。ある調査では、20代以降の全ての世代で、半数以上が健康食品やサプリメントの摂取経験があり、最も利用が多い成分の上位にビタミンB群が含まれている。
さらに言えば、家畜のビタミンB12の不足は深刻であり、肉や乳製品それ自体が、B12を含めたサプリメントを与えて育てられた動物の死体や体液である場合が多い。世界で生産されるビタミンB12サプリメントの90%は、家畜に与えられているという概算もある。直接サプリメントを通して摂取することと、サプリメントを与えて育てた動物の死体から摂取することを比べ、前者が特別に受け入れがたいものであるとする理由があるだろうか?
▶別の回答はVegan Sidekickの回答を参照
┗タンパク質は?
▶例えば上で引用した複数の専門機関が認めているように、植物性の食事から十分なタンパク質を摂取することができないというのは、単なる印象に基づく迷信に過ぎない。 適当な置き換えによって非ビーガン食と同等かそれ以上のタンパク質を自然に摂取することができる。
例えば、ブランドにもよるが、1杯(200ml)の豆乳には同量の牛乳に含まれるタンパク質(6.8g)と同等か、それ以上のタンパク質が含まれる(例えばキッコーマンの無調整豆乳では8.3g)。
大豆のアミノ酸スコアは多くの動物性製品と同じく100であるため、タンパク質源として純粋に牛乳より劣ることはない。 他にも、例えば納豆1パック(50g)には、卵1つ(50g)と同等かそれ以上のタンパク質(≥6g)が含まれている。
どうしてもタンパク質を摂るために肉を食べなければならないという強迫観念に駆られているなら、メニューに含まれる肉をそのままソイミートに置き換えればいい。 ソイミートは一般的に、乾燥状態で肉の3倍以上のタンパク質(100gあたり45g以上)を含んでおり、1/3を湯戻しして摂取すれば、同等のタンパク質を摂取できる。
ついでにソイミートには、動物の肉とは違って、コレステロールや飽和脂肪酸はほぼ含まれていない一方で、多くの食物繊維が含まれているし、カロリーも1/4程度で済む。 これは植物性のタンパク質源一般について言えることであり、スポーツ界でもプラントべース食が広まっている理由の1つだ(Forbesの記事『スポーツ界でヴィーガンが増えている5つの理由』(2020)を参照)。
こうした理由から、タンパク質のソースを、動物性から植物性に10g置き換えるごとに、全死亡リスクが男女ともに10%、循環器疾患による死亡リスクが男性で11%、女性で12%低下するという報告もある(Huang et al. 2020)。
実際、国際がん研究機関(IARC)(2015)は、肉を毎日食べた場合、加工肉50g(ベーコン2切れ以下)または赤肉100gごとに大腸がんのリスクが18%上昇するとし、加工肉を発がん性物質の5段階ある分類中、たばこやアスベストと並ぶ最高レベル(グループ1)に含めている。赤肉もその1つ下の分類(グループ2A)に含まれる。
もちろん、大豆だけでなく豆類は一般にタンパク質が豊富で、インゲン豆、そら豆、エンドウ豆、ひよこ豆など、どれも100gあたり20から25gのタンパク質が含まれるし(100均なんかで売ってるおつまみの豆が、1袋大体80gから100gのものが多い)、豆類だけでなく、そば、ブロッコリー、トウモロコシなど、タンパク質が豊富な植物性食品は数多くある。ソイミートだけでなく、小麦のグルテンから作られる植物肉セイタンには、多くの動物の肉以上のタンパク質(100gあたり30g弱)が含まれる1。 そして、上述の肉や乳製品を除けば、ノンビーガンが日々タンパク質源としている米や麺類などの主食はビーガン食でも変わらないため、適切な食生活を送っていれば十分なタンパク質が摂取できる。 ちなみに、ご飯は茶碗1杯(150g)で4g、パンは食パンでもフランスパンでも100gあたり10g弱、パスタは種類によって1食(100g)あたり5から10数g、そばは特に優秀で、1食あたり10から15gくらいのタンパク質が含まれる。
1. ちなみに、グルテンフリーという食生活が一部で流行っているが、これはもちろんビーガニズムとは全く関係がないし、小麦アレルギーやグルテン不耐症の人以外にとって長期的な実践はむしろ身体によくないため注意してほしい。ただ、どうせならアレルギーや不耐性の人も安心して食べられるようにと、植物性であるだけでなく、グルテンを含めアレルゲンを極力使用しないメニューを提供しているお店もあるが、時々食べるくらいはもちろん問題なく、そうした配慮を非難すべき理由はない。
参考文献
- Huang, J. et al. (2020). Association between plant and animal protein intake and overall and cause-specific mortality. JAMA Internal Medicine, 180(9), 1173-1184.
- IARC. (2015). IARC Monographs Evaluate Consumption of Red and Processed Meat.
- Springmann, M. et al, P. (2016). Analysis and valuation of the health and climate change cobenefits of dietary change. Proceedings of the National Academy of Sciences, 113(15), 4146-4151.