植物にも意識があるという神話:6. 植物は根に脳(「司令部」)を持っている

植物にも意識があるという神話:6. 植物は根に脳(「司令部」)を持っている

■はじめに

これは、植物にも意識があるという神話への反証を与える論文『Debunking a myth: plant consciousness(植物の意識という神話への反証)』の内容を要約したものの一部である。

論文では、植物の意識を支持する側が持ち出す12の主張がリストアップされ、その1つ1つに対し、なぜそれが間違いであるのかが示されるが、本ページは、その中の6つ目の主張『植物は根に脳(「司令部」)を持っている』に対する反論部分の要約を扱う。

引用文中の参考文献については、元論文のReferencesをあたってほしい。 論文自体の概要や、他の主張に関しては『植物の意識という神話への反証』を参照。

■主張6: 植物は根に脳(「司令部」)を持っている

主張3内で、興奮の伝導による電気信号の伝播について説明した。 一方、シナプスは神経細胞には直接接触しておらず、電気的に絶縁されているため、シナプス間の信号伝達は、伝導ではなく神経伝達物質を介して行われる。 これをシナプス伝達という。 以下の議論のために、まずシナプス伝達についての予備知識を少し補足しておこう。

●補足:シナプスと信号伝達

軸索終末(軸索の末端)にはシナプス小胞と呼ばれる小胞(膜に包まれた袋状の構造)が蓄積しており、興奮が終末まで伝わると、シナプス前膜と融合してその内容物(神経伝達物質)が放出される。 放出された神経伝達物質はシナプス後細胞(受け手の細胞)に受容されるが、シナプスにはシナプス後細胞を興奮させる(脱分極性の電位変化を生じる)興奮性シナプスと、興奮を抑える(過分極性の電位変化を生じる)抑制性シナプスがあり、脱分極性の電位変化が閾値を超えるとシナプス後細胞に活動電位が発生する。 これを、神経細胞の発火という。

伝達物質信号は前シナプス細胞から後シナプス細胞へと一方向的に伝えられるため、伝達を持続させるために、シナプス前膜に融合したシナプス小胞はエンドサイトーシスと呼ばれる機構によりシナプス前末端に取り込まれ、神経伝達物質を再充填して再利用される。

さて、この主張の具体的な内容は、根の細胞のアクチンの豊富な領域が、神経細胞におけるエンドサイトーシスや小胞の再利用などに対応する、シナプスを連想させる性質を持つ器官となっている、というものであるが、これも端的に言って根拠のない主張であると退けられる。

さらに、構造からしてこの部分が脳の対応物であると推測することは奇妙であるという指摘もなされる:

頂端分裂組織と伸長域部の間にある根の先端の移行領域は、脳のような意識や記憶の貯蔵を行なう器官の存在を推定するには特異な場所である。 そもそも、この移行領域の分裂細胞は、成熟して完全に分化が終わった機能的な神経細胞とは異なり、未成熟で未分化である(Salvi et al.2020)。 類推すると、胎児期の脊椎動物の脳にある分裂する未分化な前神経細胞は、細胞突起も発達しておらず、意識を生成するのに必要とされる機能的ネットワークを形成していない(Sadler 2018)。

という指摘がまずなされる。

さらにもう一つ批判が加えられるが、その内容は要約すると、この領域の細胞は常に置き換えられているため、「意識、感情、意志を生み出す安定した処理ネットワークの形成とは整合しない」というものである。

最後に、公平を期すために、植物に脳のような司令部が存在すると主張するのは、植物の意識の支持者の中でも一部であると指摘したうえで、別の支持者らは、社会性昆虫になぞらえて、意識が多くの組織間の相互作用から生じるという、分散型または「群知能」を提唱しているということにも触れる。 だがこれに対しても

しかし、知能が個体の意識と何らかのかかわりを持つかどうかは疑問であり、「集合意識」が実体として存在するかどうかも相当な疑問である。

というもっともな指摘がなされる。

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