植物にも意識があるという神話:4. 活動電位などのコミュニケーションのための電気信号は、ニューロンのように師要素に沿って伝播する。

植物にも意識があるという神話:4. 活動電位などのコミュニケーションのための電気信号は、ニューロンのように師要素に沿って伝播する。

■はじめに

これは、植物にも意識があるという神話への反証を与える論文『Debunking a myth: plant consciousness(植物の意識という神話への反証)』の内容を要約したものの一部である。

論文では、植物の意識を支持する側が持ち出す12の主張がリストアップされ、その1つ1つに対し、なぜそれが間違いであるのかが示されるが、本ページは、その中の4つ目の主張『活動電位などのコミュニケーションのための電気信号は、ニューロンのように師要素に沿って伝播する』に対する反論部分の要約を扱う。

引用文中の参考文献については、元論文のReferencesをあたってほしい。 また、神経細胞や植物細胞の電気化学的性質についての予備知識は、3番目の主張に関する項『膜電位と電気信号は、植物と動物の間で、意識を生み出す形で共通している』内を参照のこと。 論文自体の概要や、他の主張に関しては『植物の意識という神話への反証』を参照。

■主張4:活動電位などのコミュニケーションのための電気信号は、ニューロンのように師要素に沿って伝播する。

植物の体は基本的に根および茎と葉からなる。 維管束植物では、これら各器官は表皮系、基本組織系、維管束系の3つの組織系(組織の集まり)に分けられる。 表皮系は体の表面を覆う組織系で、維管束系は物質の輸送と器官の機械的支持の役割を担う。 表皮系でも維管束系でもないその他の部分の総称が基本組織系である。

維管束系は、木部と師部からなるが、主張はこの師部が、動物の神経細胞と同様の働きをしている、というものだ。

実際、師部は師要素と呼ばれる電気的に興奮可能な細胞で構成されており、植物内のかなりの距離にわたって電気信号を運んでいる。 しかし著者らは、師部に沿った信号伝達は、神経細胞の軸索上の信号伝達とは著しく異なるということを指摘する。 まず次のような指摘がなされる

…師部に沿った信号伝達は、神経細胞の軸索上の信号伝達とは顕著に異なる。

師部によって伝達される活動電位は、上述(主張3への反証内)したように、動物の活動電位とは異なり、浸透圧調節機能を含んでいる。 また、師部の活動電位は、離れた部分の光合成、呼吸、師部の輸送の変化を伝達するが、これらは間違いなく主に浸透圧機構によって起こされている。 植物の活動電位が、生理学的反応における機構を正確に示す形で記録されているすべてのケースにおいて、中心となる機構は浸透圧なのである。

続いて問題にされるのは、ノンビーガンの大好きな植物の痛みに関する神話に関連する部分である。

植物の師部が伝導する活動電位(AP)は、一般的に、接触、冷却、光などの非侵襲的(生体を傷つけないもの)で非損傷的な環境刺激に対する反応である一方で、破壊的創傷や焼傷に対する防御反応は、変動電位(variation potential; VP)によって伝えられる。

変動電位は、動物が痛みを意識的に感じる侵害受容神経信号に最も類似する対応物であるため、植物が痛みを感じる可能性を論じる文脈でしばしば言及される。

しかし、動物の侵害受容それ自体は、意識的な痛みの経験とは別であり、高次の神経細胞の信号伝達によってはじめて「痛み」という経験が形成される。 よって、植物の変動電位の電気的特性が侵害受容信号に似ていれば、植物も痛みを感じる可能性が考えられるが、そのような類似性は存在するのだろうか?

これに対する著者らの答えはもちろん明確に「No」である。 彼らはその理由をこう説明する(神経細胞の性質については主張3内の補足参照):

植物のVPは、侵害受容性の活動電位とも、意識をコードすると考えられているいかなるものとも異なっている。 植物のVPは、損傷後にヒトの軸索に沿って伝播する遅い侵害受容性活動電位の速さ$0.5\sim 2{\rm m s^{-1}}$(Purves et al. 2018)をはるかに下回る$0.001{\rm m s^{-1}}$程度のゆっくりとした速さで伝播する(Zimmermann et al. 2009;Mousavi et al. 2013)。 活動電位とは異なり、新たなVPは10分から数時間ごとにしか生成されず(Klejchova et al.2021)、時間や距離とともに減衰する(振幅が減少する)。 各VPは単一であり、長く続く(5分以上にわたる:Nguyen et al.2018)。 VPは、振幅または速さのために、植物の端から端まで信号を送ることができない。 VPによるニューロンのようなエンコードを妨げるもう1つの特性は、ニューロンの電気的スパイク列を特徴づけ、動物の意識に必要となる周波数エンコードとは異なり、VPは振幅と時間的振る舞いの可変性が極めて高いことである(Dennett 2015; Klejchova et al. 2021)。

要約すれば、師部はAPとVPを伝達するが、どちらも神経軸索における信号伝達とは類似しない。 特にVPは、意識におけるいかなる役割にも不適であると思われる。

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