ビーガンFAQ:全員がビーガンになったら持続不能では? #畜産 と #環境破壊

ビーガンFAQ:全員がビーガンになったら持続不能では?

By Kei Singleton
Last updated: 3 May. 2021

森林と食肉動物は同じ土地を争っている。豊かな国々の肉への異常な欲求は、アグリビジネスが森林を保護したり回復したいと考えている人々よりも多くの出資をすることが可能だということを意味している。 私たちは、文字通りハンバーガーのために、この惑星の未来をギャンブルに賭けているのだ​。―Peter Singer

■はじめに

このページでは、『ビーガンFAQ - よくある質問と返答集』における、以下の問いに対する回答を提示する。

6.全員がビーガンになったら持続不能では?

以下のリンク先からpdf版がダウンロード可能である。

※pdf版の内容の方が詳細かつ最新である。現在ウェブ版(本ページ)の更新は行っておらず,最終的にはウェブ版は廃止する予定であるため,pdf版の方を推奨する。



■全員がビーガンになったら持続不能では?


▶畜産は最も大きな温室効果ガス排出源の1つであり、特に影響が危惧されているメタンを大量に排出する。メタンは大気中に放出されてから最初の20年間で二酸化炭素の84倍の熱を取り込むとも見積もられている(Myhre et al. 2013)。 畜産業に伴う温室効果ガス排出量は、車、列車、飛行機など、輸送機関からの排出量をすべて合わせたものよりも多く(Steinfeld et al. 2006)、農業貿易政策研究所(Institute for Agriculture and Trade Policy)による2020年の報告によれば、世界13個の酪農企業による温室効果ガス排出量だけで、イギリス一カ国分の排出量に相当している。

壊滅的な気候変動を回避するためには、畜産業に対する根本的な変革が必要であると述べる科学者たちの合意報告(Harwatt et al. 2019)では

もし畜産がこのままの通り継続されるならば、畜産だけで2030年までに平均気温上昇を1.5°Cに抑えるための排出バジェットの49%に相当する排出量を担うことになり、他の部門に現実的な、あるいは予定されているレベルを超える要求することになる。

と述べられている。

さらに、畜産は放牧や飼料栽培のために、温室効果ガスを吸収してくれる森林を大規模に切り開くことや、土地、水質、大気汚染など、あらゆる種類の環境破壊の主要な原因であることにより、増大する人口も考慮すれば、むしろ動物性食品の消費を減らすことが持続可能性を確保するための絶対条件となっている。世界資源研究所(World Resources Institute)による2018年の報告では、次のように概算されている:

  • 牛肉の生産には豆類などの一般的な植物由来のタンパク質源よりも20倍以上の土地を必要とし、食べられるタンパク質1単位あたりで、20倍以上の温室効果ガスを排出する。
  • 南極大陸を除く地球の陸地の4分の1は、放牧に利用されている
  • 動物性のタンパク質源は植物性のタンパク質源と比べ、圧倒的に環境負荷が大きい傾向にあることに加え、環境負荷が小さいものは、価格も低い傾向にある。

乳製品については、次の植物性ミルクとの比較がわかりやすい。

牛乳、ライスミルク、豆乳、オーツミルク、アーモンドミルクの生産に伴う温室効果ガス排出量、土地利用量、水利用量を比較したもの。『Climate change: Which vegan milk is best?』(BBC)より

2019年の研究(Schierhorn et al. 2019)によれば、ソ連崩壊によりその地域の畜産業が縮小したことにより、炭素排出量の著しい削減が起こったとされ、畜産の撤廃が温室効果ガス排出の劇的な削減につながるという今後の予測は、過去の裏付けをもって改めて支持される形となっている。

ソ連崩壊前後の畜産に伴う温室効果ガス排出量の推移。natureより。

他にも、畜産の資源消費の非効率性を示す見積もりはいくらでもある。 例えば現在栽培される大豆の80%は家畜に与えられていると見積もられており、肉類と乳製品を全てやめれば全世界の75%以上の農場が不要となる。 これは、米国、中国、EU、そしてオーストラリアをすべて合わせた土地面積に匹敵する。 よって、純粋に家畜を放牧している土地を農地に変えることはできないから、畜産をやめても(ヒト用の)農地を増やせない、という反論も誤りである。 アマゾンの森林破壊の80%以上も畜産が目的であり、それらの地域では(2002年からさかのぼり)過去50年で森林の15%がすでに失われている(Veiga 2002)。

このように最終的に動物の死体や体液に変換するために利用される作物の量は、直接をヒトに回せば世界飢餓を解消できるほどの量である(より詳しくは『食べるものに困ってる人のことを考えたら?』を参照)。また、こうして土地が切り開かれることが原因で、現在地球では大量絶滅が進行中である(より詳しくは『家畜が絶滅してもいいの?』を参照)。

さらには、こうした畜産の営みは、新興感染症の発生にも強く関係している。 そもそも、天然痘、麻疹、インフルエンザ、エボラ出血熱、炭そ菌、腺ペスト、HIV、SARS、そして新型コロナウイルスなど、これらはすべてヒト以外の動物由来のものである。 人類学者の長谷川眞理子氏はこう述べている

私たちホモ・サピエンスが誕生した20万年前から現在までをグラフにして、人獣感染する新型ウイルスの出現をプロットすると、右端にぎゅっと固まっているはずです。それはやはり、人間が生態環境を改変していることの直接の結果だと思います。

実際、ニパウイルスやジカ熱、エボラ出血熱など近年の新興感染症の31%は、森林破壊に関連している

畜産動物は、不衛生な檻に詰め込まれており、頻発する新型の細菌やウィルスの発生に耐えさせるため、大量の抗生物質を与えられている。これは結果的に抗生物質に耐性を持つスーパーバグ(耐性菌)発生のリスクを増大させており、国際連合食糧農業機関の幹部は集中的な工業畜産を「新興感染症の温床」と呼んでいる(日本でも、鶏インフルエンザが各地で発生する中、鶏卵業者の大手が動物福祉の向上に反対するため、農林水産相に裏金を渡していたことが報じられた)。

こうした感染症のリスクは畜産を主要原因の1つとする気候変動により

  • 生息地破壊により、野生動物とヒトとの距離が縮まる。
  • 気温上昇や災害増加により衛生状態が悪化し、細菌やウィルスが増殖しやすくなる。
  • 蚊など、病原体を運ぶ生物の生息領域が拡大し、数も増える。
  • 氷河が溶け、眠っていた細菌やウィルスが解き放たれる。

などの影響を介してさらに増大する。例えば最後の要因は、すでに永久凍土の融解により露出した炭疽菌が集団感染するといった事例が生じている(気候変動と感染症の関係について詳細は、例えばアメリカ疾病予防管理センター(Disease Control and Prevention Center)のウェブサイト参照)。

大気汚染についても深刻だ。2015年にnatureに掲載された報告(Lelieveld 2015)によれば、最も多く早期死亡をもたらしている大気汚染源を分類したところ、畜産は1位の住宅のエネルギー利用に続いて2位となり、早期死亡の約20%で、年間60万人以上の死をもたらしていることが判明している。研究ではさらに、対策を講じなければ2050年までにこの数は倍増すると予測されている。

漁業による悪影響も無視できない。近年、プラスチック汚染が深刻な問題であるという認識がようやく広まりはじめているが、この主要原因はストローやレジ袋ではなく、漁業だ。太平洋ゴミベルトと呼ばれる世界でもっとも多くのゴミが集まる海域を調査した結果、プラスチックゴミの46%が漁業用の網であることが確認されている(Lebreton et al. 2018)。

このように、ビーガンをスタンダードにすることは、持続不能であるどころか、持続可能性を維持するために必須の条件でさえある。 さすがの日本でもこれらの事実は報じられるようになってきているため、知らないということは正当化できる類の無知ではなくなっている。


■参考文献

  • Cassidy, E. S. et al. (2013). Redefining agricultural yields: from tonnes to people nourished per hectare. Environmental Research Letters, 8(3), 034015.
  • Harwatt, H., et al. (2019). Scientists call for renewed Paris pledges to transform agriculture. The Lancet Planetary Health. 4(1).
  • Lebreton, L. et al. (2018). Evidence that the Great Pacific Garbage Patch is rapidly accumulating plastic. Scientific reports, 8(1), 1-15.
  • Lelieveld, J. et al. (2015). The contribution of outdoor air pollution sources to premature mortality on a global scale. Nature, 525(7569), 367-371.
  • Myhre, G., et al. (2013). Anthropogenic and natural radiative forcing. Climate change 2013: The physical science basis. Contribution of Working Group I to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change, 659–740.
  • Schierhorn, F. et al. (2019). Large greenhouse gas savings due to changes in the post-Soviet food systems. Environmental Research Letters, 14(6), 065009.
  • Steinfeld, H. et al. (2006). Livestock's long shadow: environmental issues and options. Food & Agriculture Org.
  • Veiga, J. B. et al. (2002). Cattle ranching in the amazon rainforest. In Proc. Aust. Soc. Anim. Prod. 24: 253-256.

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