ビーガンFAQ:#ライオンゾウ

ビーガンFAQ:#ライオンゾウ

By Kei Singleton
Last updated: 18 May. 2020

以下のリンク先からpdf版がダウンロード可能である。

※pdf版の内容の方が詳細かつ最新である。現在ウェブ版(本ページ)の更新は行っておらず,最終的にはウェブ版は廃止する予定であるため,pdf版の方を推奨する。


醒めた真実として、人間が他者に行ったならば、吊るし上げられ投獄されるようなことのほぼ全ては、自然にとっては日常的な営みである。―J. S. Mill。

■はじめに

このページでは、『ビーガンFAQ - よくある質問と返答集』における、以下の問いに対する回答を提示する。

2.でもライオンも...

■でもライオンも...


▶この質問が、「ライオンも他の動物を殺して食べるから、ヒトがそれを行うことも正当化されるのでは?」というものであるなら、これは、Lions tho(ライオンゾウ)と呼ばれ、プランツゾウと並ぶビーガニズムに対する最も一般的な議論の一つに分類される。この議論が有効なのは、あなたがライオンと同等の理性しか持ち合わせないか、あるいはライオンと同じように他に選択肢がない場合だけだろう。

ライオンは他の種に属する動物を殺して食べる以外にも、同種の個体、それも子供を殺して食べることもある。ライオン以外の動物に目を向けてみれば、ヒトでない動物の営みは、共食いだけでなく、盗み、レイプ、ネグレクトなど、ヒト社会では一般に不正とみなされるような行為にあふれている。他の動物の振る舞いを持ち出してこれらの行為を正当化しようとする発想をどう感じるか、それがこの質問に対する答えである。

これに対して、「肉食は必要な行為であるため、認められるべきである」という反論が想定されうる。ここでいう「必要」は大きく2つの意味が考えられる。

詳細はpdf版を参照。

▶上のような回答が依拠する「ヒトでない動物の営みは…ヒト社会では一般に不正とみなされるような行為にあふれている」という事実は、ヒトと他の動物の道徳的な性質の違いを示しており、まさにこれを根拠として、ヒトが他の動物を搾取することが正当化することができる、という主張をするものもいる。しかし、この種の主張は最も危険な主張の一つでもある。なぜなら、ヒトであっても、一部の知的障害者や赤ん坊のように、道徳的価値判断を行うことができない個体も当たり前に存在するため、上に挙げた性質の有無は属する種によって決まるものではないからである。つまり、「道徳的価値判断を行うことができるものは、できないものを搾取してよい」とするのなら、知的障害者や赤ん坊も搾取してよいことになる。

これに対してさらに、「ヒトの多くは道徳的価値判断を行うことができるという性質を満たすため、そうでない個体も同様の性質を持つものとみなせる」という反論もある。しかしこの議論も正当なものではない。

なぜなら、はじめに「道徳的価値判断を行うのに十分な認知能力を持つこと」が他者を搾取することが正当化される十分条件として提示されたとき、「ヒトであること」は(ヒトのみがその条件を満たしうるとすれば)せいぜいその必要条件でしかない。にもかかわらず、必要条件を満たす多くの個体が十分条件を満たすからといって、必要条件と十分条件を等価なものとみなすことには、論理的に致命的な問題がある(図1参照)。


図1:必要条件と十分条件の関係

1000-Word Philosophyにおける『Speciesism(種差別)』の項では、この種の議論の誤りを示すために「シャーロック・ホームズのシリーズはほとんどの作品が面白いため、その中の外れ作品まで同じシリーズに属するというだけで同様に面白い作品として評価する」という例えを提示している。

反対者によるこのような議論の根本的な問題は、行為の道徳的性質をある程度以上の複雑さで評価する認知能力を持つか否かということと、道徳的な配慮の対象となるべきであるかどうかというまったく別の話を混同していることにある。

そもそも、「私は道徳的価値判断を行うことができる。したがって、私が他者を不必要に搾取することは認められるべきだ」という類の主張に、ぜひ違和感を持っていただきたい。

▶この質問が、野生動物の苦しみを考慮し、彼らの間で生じている残酷行為をどう考えるのか、という意味の質問であるなら、答えは各ビーガンによって異なる。

個人的には、彼らの生活に積極的に介入し、可能な限り苦しみが生じない形に生態系をエンジニアリングすべきであるという立場を強く支持するが(コチラコチラを参照)、各々が生存をかけて行う野生動物の間の営みにどこまで関与すべきかという基準は、「種を問わず他者の搾取に加担することに反対する立場である」というようなビーガニズムの定義だけからは導くことができないためである。

いずれにしても、遠い異国で生じている問題の解決に寄与できないからといって、あなたが身近な他者に危害を加えてよいということにはならないのと同じように、野生動物の苦しみを取り除くことができないからといって、それがヒト社会内部の搾取システムへの寄与を正当化する理由にはならない。

 関連: 『19.アクシデントを含め、犠牲をゼロにすることはできないから、ビーガンになっても無駄では?』


■参考文献

  • xxx, 

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