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About Us

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About Us First published: 8. Feb. 2019. Last updated: 7. Apr. 2019. ――Who We Are―― 苦しみの根絶を目指す根絶論者の共同体。組織的実体は持たず、活動は全面的に賛同者の意志に任せられる。 ――Our Mission―― あらゆるメタ倫理学的問いをバイパスして、一つの明確な実証的事実にたどり着くことができる。 あらゆる問題は、意識的存在のネガティブな主観的経験に還元される という事実である。 知的好奇心に基づく科学的あるいは哲学的探究も、感情を具現化する音楽も絵画もその他のアートも、喜びを追求するスポーツも映画もセックスも、すべて退屈や不平や不安や欲求不満というネガティブな感覚から逃避するための行動として記述することができる。 我々はそれらのうちで、ネガティブな経験を効果的に回避できる事柄に正の価値づけをするが、本来焦点を当てるべきは、すべての問題と終わりのないあがきの根源的駆動力であるネガティブな主観的経験――すなわち 苦しみ ――である。 それゆえ、 真に意味のある議論は、いかにしてこれらの苦しみを根絶するか、ということなのである。 ・苦しみの基礎的洞察については、例えば 『 心の哲学と苦しみ:快苦の非対称性と苦しみの支配性およびアンチナタリズム 』 『 幸福のネガティブな存在論:ショーペンハウアー的議論 』 『Bad is Stronger than Good (編集中)』 参照 近年、我々ホモ・サピエンスが他の種に属するものたちに対して多大な苦痛を及ぼしてきたことが、ようやく真剣に議論されるようになり、彼らを我々の拷問から解放するために、ビーガンになるという選択をするものが増えてきている。 近い将来、 ビーガニズム はスタンダードになり、技術的発展にも後押しされ、動物の解放は実現されるだろう。 しかし、仮にビーガニズムがグローバルに適用されたとしても、我々の抱える道徳的問題はほとんど全くと言っていいほど解決されない。自然界に目を向ければ、日々、兆を超えるオーダーの知覚を持つ生物たちが、無慈悲で残酷な野生の世界で、互に騙し合い、奪い合い、そして殺し合っている。ここで生産されている苦しみは、我々には認識できるレベルを

我々は石器時代の方が幸福だったのだろうか?~ユヴァル・ノア・ハラリの記事より

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我々は石器時代の方が幸福だったのだろうか? ~ユヴァル・ノア・ハラリの記事より 『Were we happier in the stone age?』というタイトルで『 サピエンス全史 』や『 ホモ・デウス 』の著者として知られるユヴァル・ノア・ハラリが2014年に ガーディアン紙に寄稿した記事 を取り上げつつ、ダーウィン的生命システムの本質的欠陥と、それに翻弄される個体の葛藤について考察する。 念の為先に言っておくが、ハラリの記事は原始的な時代の暮らしの方がマシだったため、自然に回帰すべきであるというパレオ信仰を持つものへの応援メッセージではない。 ハラリはまず、経済と幸福度の関係について触れる: 個人主義の台頭と集団主義的イデオロギーの衰退と共に、幸福は間違いなく最上の価値となっている。人口の途方もない成長と共に、幸福はこれまでにない経済的重要性も得ている。 この個人主義の台頭と集団主義的イデオロギーの衰退が個人の幸福、あるいはより一般的な言い方をすればウェルビーイングの位置づけを変化させてきたという指摘は極めて重要だと思われる。近年、ようやく我々の個体としての存在の正当性についての有意味な議論が始まった背景として、この点を無視することは決してできない。 そしてほとんどの国は――多くの場合、ハラリが「最も成功した宗教」と呼ぶ資本主義に則って――経済成長に焦点を当てており、その動機を尋ねられれば、それが人々の幸福につながるからと答えるだろう。しかし、ハラリの問いは、本当にそうなのか?ということである。 実際にそうではないだろうとハラリは考えているわけであり、その理由を説明するのがこの記事の主題なのであるが、もう一つ重要なのが「これまで、長期的な幸福の歴史についての科学研究はほとんど存在しない」という指摘である: 学者たちは、政治、経済、疫病、性、食事など、あらゆるものの歴史について研究してきたが、それらすべてが人類の幸福にどのような影響をもたらすかについては、ほとんど問うてこなかった。 この指摘は、苦しみについて学術的な関心が長い間向けられてこなかったという トーマス・メッツィンガーの指摘 と本質的に同じものと言ってよいと思われる。メッツィンガーはこれを「認知的な暗点(cognitive scotoma)」と呼び、種々

幸福のネガティブな存在論:ショーペンハウアー的議論

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幸福のネガティブな存在論 ショーペンハウアー的アプローチ これは、Manolito Gallegosによる論文『The Negative Ontology of Happiness: a Schopenhauerian Argument』の要約と抜粋を基に、Arthur Schopenhauerによる喜びや幸福の消極的な存在論的性質についての洞察を紹介する。 注意事項: 元論文内の引用を二重に引用する場合にややこしくなるため、元論文からの引用はインデントを変えず、文字の色を 青色 にして区別する。文字色が区別されない形式で閲覧している場合や、その他なんらかの理由で色の識別が困難な方は注意してほしい Abstractはそのまま引用する: このエッセイでは、実際に幸福は存在せず、それは単に苦の不在にそのようなラベルを貼っているだけのものだというショーペンハウアーの主張を考察する。それを行うため、その見解のためにショーペンハウアーが示した付加的な仮定や議論だけでなく、まずその主張自体を精査する。その後、いくつもの異議を挙げ、結果的にはショーペンハウアーに分のある結論を持つ、それら一つ一つに対する反証を与える。しかし、私はまた、その見解に問題をもたらす可能性のあるいくつかの哲学分野についてコメントし、幸福の非存在からどのような結論がさらに導き出されるのかということ、また、それ以上の議論がなくとも、それによって影響を受けないことが明らかな分野について簡単に議論する。 要するにこの論文は、幸福は苦の不在のことであるというショーペンハウアーの主張を紹介し、それに対して考えられる反論に対して、一つ一つさらに反論を与えていくというものである。しかしここでは、主に論文中で引用されているショーペンハウアーの議論を引用するにとどめる。 まず、ショーペンハウアーの議論で用いられる言葉が何を意味しているのかということの確認から始まる。始めに取り上げられるのが、ショーペンハウアーが「情(feelings)」という概念をどう扱っていたかということである。以下は『意志と表象としての世界』の第11節からの引用である(この記事を通して日本語訳は 西尾 幹二による訳書  を参考している): 情と言う言葉が示す概念は、どこまでも消極的な内容のみを帯びている。意識の

ビーガンFAQ - よくある質問と返答集

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―Frequently Asked Questions― (よくある質問) by Kei Singleton First published: 10. Oct. 2017; Last updated: 5. Aug. 2020 以下のリンク先からpdf版がダウンロード可能である。 >> ダウンロードページ << ※pdf版の内容の方が詳細かつ最新である。現在ウェブ版(本ページ)の更新は行っておらず,最終的にはウェブ版は廃止する予定であるため,pdf版の方を推奨する。 ビーガニズム= ×完全菜食主義 ×肉嫌い ×動物愛護 ×信仰 〇反差別運動 ―Index― 1.でも植物も..  ┗わからないだけで植物にも知覚があるかもしれないのでは?  ┗植物にも意識があるという記事(の見出しだけ)を読んだけど?  ┗動物が本当に苦しむかわからないのでは?  ┗意識の定義によるのでは?  ┗苦痛が問題なら、苦痛なく殺せばよいということになるのでは? 2.でもライオンも... 3.菜食は健康に悪いのでは?  ┗菜食で命を落とした子供がいると聞いたけど?  ┗ビタミンB12は?/サプリメントが必要な食事は不完全ではないか?  ┗タンパク質は? 4.価値観を押し付けないでくれないか?/個人で勝手にやってくれないか? 5.食べるものに困ってる人のことを考えないのか? 6.全員がビーガンになったら持続不能では? 7.動物を食べるのは自然なこと/昔から食べてきたからいいのでは?  ┗人間も自然の一部だから、その行いをやめさせようとするのは間違いでは?  ┗肉食によって人類の脳の発達が促進されたのだから、肉を食べるべきなのでは? 8.ヒトラーも菜食主義者だったらしいけど? 9.作物の栽培でも動物が犠牲になるのでは? 10.ビーガンが増えたら畜産関係者が職を失うのでは?  ┗ビーガンは畜産関係者を差別してるのでは? 11.個人の自由では? 12.ヒト以外の動物は道徳的に配慮する必要はないのでは?/種が違うのだから当然では?  ┗ヒト以外の動物に権利を与えるという発想には無理があるのでは?  ┗ヒト以外の動物は道徳や権利なんて認識しないから自己満足では? 13.ビーガニズ

野生動物の苦しみに関する極めて不都合な真実, The Vegan Strategistより

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野生動物の苦しみに関する極めて不都合な真実  The Vegan Strategistより The extremely inconvenient truth of wild animal suffering JUNE 1, 2016 ~ TOBIAS LEENAERT http://veganstrategist.org/2016/06/01/the-extremely-inconvenient-truth-of-wild-animal-suffering/ それほど前の話ではない。南アフリカのある場所で、若いシマウマが泥沼にハマっている。 彼女はパニックになっている。何も起こらなければ、彼女の泣き声とあがきは無駄になりすぐに窒息してしまうだろう。 しかし突如助けが入る:若いサイがシマウマを見て、その巨大な頭をその動物の下に入れ、泥沼から彼女をすくい上げる。一瞬、それはうまくいった救命行為のようも見える。しかし、サイはそのシマウマを突き刺して殺した牙の存在を忘れている。 安全な距離で別の存在が現場を見ている:一体のホモ・サピエンスである。 プロの自然写真家である彼は、そのドラマの一連の写真を撮影した。その男は干渉することができた。しかし後にジャーナリストに語ったように、彼は「自然は自然のままにする」ことが最善であると感じていた。 状況はこうだった。死に至る危険にさらされているシマウマは、彼女を救うことはできないサイに「救われた」(おそらく彼は遊ぶつもりだったか、単なる好奇心からだったのだろう)。一方、救うことができたヒトは傍観し運命にゆだねた。 救助が必要なヒトに出くわした時、少なくとも自分自身のリスクがほとんどあるいはまったくない場合は、我々は行動を起こすだろう。動物においては、この道徳的義務の感覚は持っていない。 特に野生動物は、我々が干渉すべきでない 別の世界に属しているように思われている 。だが、どうしてだろうか? 「自然」イコール「善」ではない。  未だに多くの人にとって、「自然であるもの」は、「良いもの」や「正しいもの」と同義だ。 自然界で起こることは起こらなければならない、でなければ起こるべきでない。あるいはそのような考えである。 それでも、ヒトの進化全体は、自然に対抗し、征服し、打ち勝ち、出し抜

個体群動態論:ロジスティック方程式とr-K戦略

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個体群動態論:ロジスティック方程式とr-K戦略 First written: 3 Feb 2019; last update: 3 Feb. 2019 はじめに Malthusモデル では単純な指数関数的成長を考えたが、ここでは個体数密度による影響を考慮に入れたロジスティック成長モデルを考える。ここに現れるパラメータを用いて、簡易的な理論ではあるが、$r$-$K$淘汰理論というものを考えることができる。これにより、自然界が苦痛に満ちている理由をより具体的に理解することが可能になる。 1. ロジスティック方程式 Malthusモデルは、個体数にかかわらず、常にその数に比例して増殖するというモデルであったが、実際には成長率は個体数そのによって変動する。つまり、個体数の変化率$dN/dt$は、$N$に依存する何らかの関数$f(N)$を用いて \begin{align} \frac{dN}{dt} =Nf(N) \end{align} と置ける。以下、いくつかの仮定の下、この関数$f(N)$の具体的な形を決定する。 個体数がどんどん大きくなると、資源や生息領域などをめぐる争いが生じ、個体数が十分小さな場合と同じような指数関数的成長は見込めなくなるということが考えられる。この現象を再現するためには、ある環境中に安定的に生息可能な個体数には限界があり、その限界に近づくにつれて個体成長率が減少していくような性質を備えた方程式が欲しい。そこでまず、環境中に収容できる個体数の限界をモデルに組み込もう。その限界値を$K$とすれば、個体数$N$が安定的に取りうる値は0から$K$までとなる。$K$は 環境収容力 と呼ばれる。我々が求めるモデルでは、成長率は個体数が$K$より少なければ正$(dN/dt>0)$であり、$K$を超えると符号が反転して負の値$(dN/dt <0)$を取る、つまり個体数は減少して$K$に向かって戻っていくような形になるべきである。これを満たす最も単純な選択は、$f(N)$に \begin{align} \left( 1 -\frac{N}{K} \right) \end{align} という因子を持たせることである。 この因子は$N/K > 1$となると符号が反転して負の値を取るようになることがわかるだろう。 この因子は

個体群動態論:Malthusモデル

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個体群動態論:Malthusモデル First written: 3 Feb 2019; last update: 31 Mar. 2020 1. はじめに この記事では、個体数の時間発展モデルの中で最も単純な指数関数的成長を表すMalthusモデルを紹介する。このモデルは、微分方程式の最も基本的な部分についての知識のみによって構成できることから、生物現象に限らず、他の様々な数理現象について学ぶ上で必要な基本的知識に馴染むのに適したモデルにもなる。 微分 および 積分 については、それぞれリンク先の記事で簡単に説明しているし、その他必要な数学的知識は記事中で説明する。変数分離法によって簡単な微分方程式を解くことができるという人にとっては、数理的な知識については学ぶことはほとんどないと思われる。 2. 離散的Malthusモデル 個体数$N$の生物集団が、その数に比例して増殖していくモデルを考える。例えばペトリ皿中のバクテリアなどを想像しよう。繁殖時間を離散的(連続的ではなくとびとびに)に取り、初期段階の個体数を$N_0$とする。すると、時間ステップが1つ進み繁殖が行われた後の個体数の増加は、個体数に繁殖率$b$をかけて$bN_0$となる。一方、時間ステップ中に死んでしまう個体もありうるから、死亡率$d$を個体数にかけた$bN_0$を差し引く。すると正味の増加分は$(b-d)N_0$と表せる。正味の成長率を$m=b-d$と書けば、1ステップ後の個体数$N_1$は \begin{align} \label{eq1} N_{1} = N_0 + mN_0 = (1+m)N_0 \end{align} と表せる。つまり、もともとの数$N_0$に、$N_0$の個体が$m$の割合で増加した分を足したのが、第$1$ステップ目の数$N_1$になるということである。増殖率を表す係数$m$は Malthus係数 と呼ばれる。 この式は、任意の時間ステップ$i$に一般化できる。ある時間ステップ$i$のときの個体数を$N_i$は、前のステップの個体数$N_{i-1}$を用いて \begin{align} \label {eq2} N_{i} = N_{i-1} + mN_{i-1} = (1+m)N_{i-1} \end{align} と表せる。このよう