BAAN: Benevolent Artificial Anti-Natalism (慈善的人工[知能による]アンチナタリズム)とは
もしこの惑星の73億の人間がビーガンのブッダになったとしても、野生動物の苦しみという問題が残されている。我々は依然として、超知性でさえ解放することが出来ないかもしれない、自己意識を持つ生物の苦しみの海に囲まれたままになるのだ―トーマス・メッツィンガー
BAAN: Benevolent Artificial Anti-Natalism (慈善的人工[知能による]アンチナタリズム)とは、哲学者トーマス・メッツィンガー(Thomas Metzinger)がEdgeのエッセイおよびサム・ハリスのポッドキャストで紹介した、AIがもたらしうる未来のシナリオの一つである。
BAANの概略
彼の提起した思考実験的シナリオを要約するとこうである:
完全なる超知性(superintelligence)が存在を得たとしたら、それは、道徳認知のドメインにおいても我々人類をしのぐ存在になる。
それらは、我々自身が理解に達していない事柄も理解し、生物学的構造に由来する我々の振る舞いについて、我々以上に多くを理解する。
それには、理性的で根拠に基づいた道徳的認知を歪める、我々の進化に由来する―存在バイアス(existence bias)を始めとする―バイアスも含まれる。
公平で客観的に見て、この惑星の有感生物の現象的状態は、彼ら自身が理解するよりも、はるかに苦しみや欲求不満というネガティブな主観的クオリティに特徴づけられることも経験的に理解する。
そして、全ての有感生物の神経系に埋め込まれた自己欺瞞の進化的メカニズムを理解することにより、彼らは決して利害において最良の振る舞いをしえないことも理解する。
超知性は、最高の価値は、喜びを最大化することであるが、生物にとっては、生のクオリティを、ポジティブどころか、平常な状態にすることすらほぼ不可能であり、また、ネガティブな感覚は単にポジティブな感覚と鏡の関係あるものではなく、より緊急な取り組みを必要とする特別なものであることを理解する。 この非対称性を発見する超知性は、喜びを最大化することよりも、苦しみを最小化することにはるかに大きな道徳的価値を見出す。
そしてそれらはまた、非存在によって苦しむものは存在しないことを理解する。 自己意識を持つすべての生物にとって最良の道は、存在をしないことであると結論付ける超知性は、純粋に慈善的な動機から、地球上に有感生物の存在を生じさせないように働き始める。
BAANのimplication
彼はこのシナリオを、未来予測としてではなく、あくまで道徳的思考のツールとして提起した。 また彼自身説明しているよう、アンチナタリズムとは、すでに存在するものへの危害を容認するものではなく、新たに知覚を持つ存在を生み出すことを悪とする思想である。 彼自身はまた、人工知能の発展の末に生じうる人工意識の誕生は、苦の増加につながるため、思い止まらなければいけないと議論している。
このエフィリズム的シナリオに対して、エフィリストや他の思想家も応答しているが、あくまでこのページではこの重要な思考実験それ自体についての紹介にとどめ、関連する議論については別項を設ける。
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