どれだけの野生動物が存在するのか,Wild-Animal Suffering Researchより

どれだけの野生動物が存在するのか,Wild-Animal Suffering Researchより

原文:
How Many Wild Animals Are There?
https://was-research.org/writing-by-others/many-wild-animals/


イントロダクション

どれくらいの数の動物が存在しているのか、という率直な疑問に対する答えについて、驚くほど科学的研究がなされていない。 動物種の数について様々な合理的な見積もりがなされているが、異なる環境での動物の豊富さに関するデータの収集手段は非常に多様であり、実際の個体数は比較的未検証である。 ここでは、この数値についてのいくつかの見積もりを説明し、その精度を評価する。


種数

2014年の論文(Caley, Fisher, & Mengersen, 2014)は、世界中の種の豊かさが何年にもわたり、どのように繰り返し推定されてきたを記述しているが、その推定値は一貫して大きく変動しており、依然として標準値に収束していない。 値はまた、論理的に矛盾している。すなわち、種の総数を上回る海洋種の数や、海洋種の数を上回るサンゴ礁の種の数が含まれている。

2011年の研究では、7.77×10^6 (10の6乗)の動物種が存在すると予測されている。そのうち9×10^5しか明らかにされていない(Mora, Tittensor, Adl, Simpson, & Worm, 2011)。

種の平均個体数を決定することは困難である。 一部の種はかなり一般的であるが、一部は非常に希少であるためである(Fisher, Corbet, & Williams, 1943)。 これらを関連づけるために行われた推定は、一般的に、限られた地理的領域に生息する飛行昆虫のような小さな種の範囲に焦点を当てている。


昆虫

スミソニアン研究所のオンライン百科事典(「スミソニアン百科事典:昆虫の数」n.d.)は昆虫の個体数に関するいくつかの文献をレビューしている。 世界中で10^19種の昆虫が推定されており、ノースカロライナとペンシルベニアのフィールドで行われた研究を参照している。

ある教科書では、昆虫の数は1エーカーあたり4×10^7匹であると見積もっている。 これがグローバルに適用される場合、世界中に1.47×10^18匹の昆虫が存在することを意味している(Pedigo & Rice, 2014)。 砂漠や熱帯雨林での相対的な昆虫の豊富さが考慮されているかなど、この数を計算するために使用された正確な方法は示されていない。

この数字は引用されていないが、Manducaプロジェクト(“The Manduca Project,” n.d.)は、1×10^18匹の昆虫がいることを示唆している。


遠海の動物プランクトン

幅広い緯度に渡る大西洋の領域をカバーする1つの研究は、10Mの深さで、1立方メートルあたり平均約20の動物プランクトンを発見し、特定の緯度ではそれをはるかに上回る数を発見している(Clark, Aazem, & Hays, 2001)。 この濃度が有光層 [1](“photic zone | oceanography,” n.d.)を通じて一定であると仮定すると、海面から80m以内に、1平方メートル当たり600の動物プランクトンを含んでいるはずであり、これより動物プランクトンの最小の数が与えられる。 地球の海面から80メートル以内にいる動物プランクトンの数は、5.78 ×10^17となる。

これには、データがそれ以上に不足している、それより深い場所の動物プランクトンは含まれていない。 底生動物は深度とともに対数的に減少する。 さらに、動物プランクトンのサンプルの大半を占めるカイアシ類の個体数は、季節的に10倍にまで増加する(Atkinson, Ward, Hunt, Pakhomov, & Hosie, 2012)。

カイアシ類の研究者であるGeoff Boxshallは地球の海洋の海水1リットル当たりカイアシ1匹と概算しており、これは世界中の海洋で10^21匹のカイアシがいる結果になるが、彼は1リットルあたり1匹というのはおそらく過小な見積もりであると示唆している(“COPEPODS | Plankton Safari,” n.d.)。 Brian Tomasikは、カイアシ類はおそらく海面近くから離れるにつれより豊富になり、より深いところでは豊富さが減るだろうと指摘している(“How Many Wild Animals Are There? | Essays on Reducing Suffering,” n.d.)。 動物プランクトンの豊富さは、80メートルを下回ると急激に減少する(May & Ser., 1982)(Grice & Hulsemann, 2010)、そして90%の海洋動物は有光層に生息している(“Seaweek 2010: Oceans of Life ours to explore; ours to restore”,” n.d.)しかし、海洋の体積の90%が無光層 [2] (“Ocean Zonation,” n.d.)であるため、より深海での動物プランクトンの豊富さに関するより正確なデータは、さらに正確な推定をもたらすだろう。


樹冠の動物

樹冠には多数の動物が生息している。衛星調査では、地球全体に3×10^12の樹木が存在することを示唆している(Ehrenberg, 2015)。 節足動物の数を用いた、亜熱帯オーストラリアのArgyrodendron actinophyllum(訳注:樹木の名前、日本語名見つからず)の研究(Basset & Arthington, 1992)と17.5Mの熱帯樹の平均樹冠幅(“Rainforest Primer « Rainforest Conservation Fund,” n.d.)を用いれば、すべての亜熱帯および熱帯の樹木の葉に6.06×10^19の節足動物、そしておそらくすべての樹木の葉に7×10^19から1.4×10^20の節足動物がいるものと一般化できる。 これは、1つの樹木が1つの種で覆われているとする単一の研究と、樹冠の幅のみから出した樹木の葉の見積もりに依るものであるため、非常に大まかな見積もりある。 またこの研究は、樹冠の葉の動物のみで、幹に住む動物を除外している可能性があるとも指摘されている。


線形動物

1980年代とそれ以前の研究によれば、海洋および陸上の土壌1平方メートルにつき数百万の線虫が存在し、他の動物よりも1桁大きいと示唆されている(Wharton & Surrey, 1994)。 これは、地表面に約2.5×10^21の線虫がおり、土壌上または土壌中には2.75×10^21存在することを示唆している。 2010年の海洋生物びセンサスなどのより現代的な調査の詳細な調べを用いれば、これらの計算を改訂してより良い結果を得ることが可能になるかもしれない。


底生生物

2006年の研究(Rex et al., 2006)は、128の研究から得られた海底動物のデータを調べ、サンプル中の動物の個体数が深度とともに対数的に減少していたことを観察した。 彼らは、3つのカテゴリーの動物において、海底1デシメートルあたりに存在する動物の量を決定するためのいくつかの方程式を作成した。 与えられた深度に存在する地表の割合を用いて(Wright & Rothery, 1998)、これを外挿することで、海底に生息する動物の総数を推定することができる。

個別に分析された3つの動物のカテゴリ:

メイオファウナ:微小な線虫、ソコミジンコ、他のグループの非常に小さな生物など。合計:海底全体に9.03×10^21。
大型動物:多毛虫、フクロエビ上目、他の軟体動物。合計:海底全体で2.06×10^19。
巨型動物:魚、棘皮動物、昆虫および甲殻類(すべて直径1cmから1dmまで)合計:海底全体で2.41x 10^15。
合計すると、海底全体に生息する動物の総数は9.05×10^19となる(訳注:10^21の誤りではないかと思われる)。

使用されたサンプリング地点は複数の海洋および緯度から得られたが、特に大西洋および隣接海域に集中し、インド洋太平洋および南半球のサンプルは不足している(Rex et al., 2006)。 サンプルの不足する地域における現存量のさらなる研究は、これらの見積りをより正確にすることができるだろう。


土壌

2007年の研究(Uk, n.d.)は、英国の土壌の8cm以内に住む無脊椎動物の数を1.28×10^16と推定している。 英国の土地から地球の土地について推定すると、土壌中に8.07×10^19 の無脊椎動物が生息していることが予測される。 これは砂漠、特に南極大陸ではるかに低く、熱帯雨林では多くなる可能性が高い。


合計

すべての動物の最も包括的な利用可能な要約の1つは、不確定度を含む様々な動物群の個体すを推定するための様々な情報ソースをレビューしたBrian Tomasikのものである(“How Many Wild Animals Are There? | Essays on Reducing Suffering,” n.d.)。


家畜 2.2×10^10

魚 10^13 – 10^15あるいはそれ以上

カイアシ類 10^18 – 10^21

昆虫 10^17 – 10^19

腹毛動物 (?) 10^19

線形動物 (?) 10^22

合計: ~10^20 – 10^22

この研究のさまざまなグループについての見積もりはオーバーラップしている。 例えば、昆虫の総数の推定値には、土壌に生息する昆虫と樹冠に棲む昆虫の両方、ならびに他の推定値が含まれる。 それぞれの見積もりは異なる方法で行われるため、精度を個別に評価する必要がある。 ある総動物数の大まかな見積もりは、最も多い動物数の、オーバーラップしないカテゴリーからの最良の推量を、以下のように合計している:遠海の動物プランクトン+底生動物+樹冠に生息する動物+土壌に生息する動物= 5.78×10^17 + 9.05×10^19 + 10^20 + 9.08×10^18 = 2×10^20。 不確定性のために、実際の合計は、これの数桁以内になる可能性がある。


文献

Atkinson, A., Ward, P., Hunt, B., Pakhomov, E. A., & Hosie, G. W. (2012). An overview of Southern Ocean zooplankton data: abundance, biomass, feeding and functional relationships. CCAMLR Science, 19, 171–218. Retrieved from https://www.ccamlr.org/en/system/files/science_journal_papers/Atkinson-et-al-zoo.pdf

Basset, Y., & Arthington, A. H. (1992). The arthropod community of an Australian rainforest tree: Abundance of component taxa, species richness and guild structure. Australian Journal of Ecology, 17(1), 89–98. https://doi.org/10.1111/j.1442-9993.1992.tb00784.x

Caley, M. J., Fisher, R., & Mengersen, K. (2014). Global species richness estimates have not converged. Trends in Ecology & Evolution, 29(4), 187–188. https://doi.org/10.1016/j.tree.2014.02.002

Clark, D. R., Aazem, K. V., & Hays, G. C. (2001). Zooplankton Abundance and Community Structure Over a 4000 km Transect in the North-east Atlantic. Journal of Plankton Research, 23(4), 365–372. https://doi.org/10.1093/plankt/23.4.365

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Ehrenberg, R. (2015). Global count reaches 3 trillion trees. Nature News. https://doi.org/10.1038/nature.2015.18287

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Grice, G. D., & Hulsemann, K. (2010). Abundance, vertical distribution and taxonomy of calanoid copepods at selected stations in the northeast Atlantic. Proceedings of the Zoological Society of London, 146(2), 213–262. https://doi.org/10.1111/j.1469-7998.1965.tb05210.x

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Wright, J., & Rothery, D. A. (1998). The Ocean Basins: Their Structure and Evolution. Elsevier Science & Technology Books. Retrieved from https://market.android.com/details?id=book-0UBRAAAAMAAJ

脚注

1. The euphotic zone is the top layer of the ocean, which has enough sunlight for photosynthesis to take place.
2. Dark parts of the ocean where less than 1% of light from the surface penetrates.

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