個体群動態論:ロジスティック方程式とr-K戦略

個体群動態論:ロジスティック方程式とr-K戦略

First written: 3 Feb 2019; last update: 3 Feb. 2019

はじめに

Malthusモデルでは単純な指数関数的成長を考えたが、ここでは個体数密度による影響を考慮に入れたロジスティック成長モデルを考える。ここに現れるパラメータを用いて、簡易的な理論ではあるが、$r$-$K$淘汰理論というものを考えることができる。これにより、自然界が苦痛に満ちている理由をより具体的に理解することが可能になる。


1. ロジスティック方程式

Malthusモデルは、個体数にかかわらず、常にその数に比例して増殖するというモデルであったが、実際には成長率は個体数そのによって変動する。つまり、個体数の変化率$dN/dt$は、$N$に依存する何らかの関数$f(N)$を用いて \begin{align} \frac{dN}{dt} =Nf(N) \end{align} と置ける。以下、いくつかの仮定の下、この関数$f(N)$の具体的な形を決定する。

個体数がどんどん大きくなると、資源や生息領域などをめぐる争いが生じ、個体数が十分小さな場合と同じような指数関数的成長は見込めなくなるということが考えられる。この現象を再現するためには、ある環境中に安定的に生息可能な個体数には限界があり、その限界に近づくにつれて個体成長率が減少していくような性質を備えた方程式が欲しい。そこでまず、環境中に収容できる個体数の限界をモデルに組み込もう。その限界値を$K$とすれば、個体数$N$が安定的に取りうる値は0から$K$までとなる。$K$は環境収容力と呼ばれる。我々が求めるモデルでは、成長率は個体数が$K$より少なければ正$(dN/dt>0)$であり、$K$を超えると符号が反転して負の値$(dN/dt <0)$を取る、つまり個体数は減少して$K$に向かって戻っていくような形になるべきである。これを満たす最も単純な選択は、$f(N)$に \begin{align} \left( 1 -\frac{N}{K} \right) \end{align} という因子を持たせることである。 この因子は$N/K > 1$となると符号が反転して負の値を取るようになることがわかるだろう。 この因子は成長率の符号を決めるだけであるため、これに成長の速さに関係する何らかの係数$r$を合わせたものを$f(N)$とすれば \begin{align} \label {logeq} \frac{dN}{dt} =rN\left( 1 -\frac{N}{K} \right) \end{align} が得られる。 我々が求めていた性質を備えたこの方程式はロジスティック方程式と呼ばれる。 個体数$N$が環境収容力$K$より十分小さい場合、すなわち$N/K \ll 1$の場合、これに比例する量を無視する近似で(\ref{logeq})は \begin{align} \label {approx} \frac{dN}{dt} \simeq rN \end{align} と、指数関数的成長を表す式に帰着する。つまり、$r$は環境的制約がない場合の成長率を表しており、内的自然増加率と呼ばれる。

2. ロジスティック方程式の解

ロジスティック方程式も、変数分離法によって解くことができる。まず(\ref{logeq})を \begin{align} \notag rdt =& \frac{dN}{N\left( 1 -\frac{N}{K} \right)} \\ =& \frac{KdN}{N\left( K -N \right)} \end{align} と変形し、左辺は$t$、右辺は$N$の関数に分離する。これを積分するわけだが、そのために右辺をさらに \begin{align} \frac{KdN}{N\left( K -N \right)} = \left( \frac{1}{N} + \frac{1}{K-N} \right) dN \end{align} と変形する。するとそれぞれの項を別々に積分出来て、結果は \begin{align} \notag \int_{N_0}^{N} \left( \frac{1}{N'} + \frac{1}{K-N'} \right) dN' =& \left[ \ln{N'} -\ln{(K-N')} \right]^{N}_{N_0} \\ \notag =& \ln{\frac{N}{N_0}} - \ln{\frac{K-N}{K-N_0}} \\ =& \ln{\frac{(K-N_0)N}{(K-N)N_0}} \end{align} となる。被積分関数の$N$にプライムがついて$N'$と書いてあるが、これは後に代入する$N$と区別するためなので本質的な意味のある記号ではない。また、二行目以降で$\ln{a}-\ln{b}=\ln{(a/b)}$の関係を使っている。これが左辺の積分結果$rt$と結ばれることから \begin{align} e^{rt} =\frac{(K-N_0)N}{(K-N)N_0} \end{align} が得られるが、欲しいのは$N$の形なので、もう少し変形が必要だ。まず右辺の分母を左にやり \begin{align} KN_0e^{rt} - NN_0e^{rt} =(K-N_0)N \end{align} とし、次に左辺二項目を右にやって$N$でくくる: \begin{align} KN_0e^{rt} =\left[ K-N_0\left(1 + e^{rt}\right) \right] N \end{align} 後は$N$の係数で割ってやれば \begin{align} \label {logsol} N(t) =\frac{ KN_0e^{rt}}{\left[ K-N_0\left(1 + e^{rt}\right) \right]} \end{align} が得られる。これをプロットしたのが図1である。

図1:(\ref{logsol})をプロットした図。$r=1.0$、$K=100$とし、初期値$N_0$をそれぞれ$1$と$150$としたケースに加え、$N(t)=e^{rt}$もプロットしてある。$N_0=1$からスタートした場合、ロジスティック方程式に従う場合も始めは指数関数的に成長する((\ref{approx})の近似が成り立っている)が、やがて$K$の値に収束していくことがわかる。$N_0=150>K$からスタートした場合も、同じく$K$の値に収束していくことがわかる。


3. r-K戦略

生物の取る繁殖戦略は、ロジスティクス方程式に現れる二つのパラメータ$r$と$K$に基づいて名付けられた$r$-戦略$K$-戦略の連続的なスペクトル上に位置付けられると言うのが、$r$-$K$淘汰理論の主張である。現在生態学において$r$-$K$理論は適切な理論ではないと考えられているが、生物の取る戦略の傾向性を簡易的に理解するための概念的なツールにはなる。

$K$-戦略は、個体数が$K$に近く集団内の競争が厳しい種に見られるもので、そういった環境では一度に産む子供の数は少ないが、子供一体一体への資源の投資は大きくし、生存率を高める($r$は小さく$K$を多くとる)方向への淘汰が生じる(これを、メタファーとして、「$K$-戦略をとる」などと表現する)。一方、$r$-戦略は環境的な不確定性が高く、密度効果とは別の死亡要因の影響を大きく受ける種が採用する戦略で、$r$を高くすることで個体数を維持しようとする戦略である。この場合、子供一体一体への投資は小さくなるため、結果的に繁殖可能な年齢まで生き残る数は非常に少なくなる。

残念なことに、自然界の多くの動物が採用している戦略は後者の$r$-戦略側に位置している。そのため、この世界に産み落とされる動物の大半は、生まれてすぐに死んでいく。多くが成熟の早い早成動物であり、早い段階から意識的な知覚を持っていると考えられる。すなわち、この世界に生を受ける動物の大半は、ただ苦しみを経験し死ぬためだけに生まれてくるといっていい。これが、自然界で経験される主観的経験は圧倒的に苦しみが支配していると考えられる大きな理由の一つである。

改めて、現代の生態学では、$r$-$K$理論は枠組みとして問題があることが指摘されている。しかし、野生動物の多くが多産で生まれた個体の大半が早期に死亡するという事実には変わりない。より洗練された理論については別の記事に回すとして、ここではその事実を認識してもらえれば十分だ。多産な戦略の悲惨な帰結を含めた野生動物の営みに関するより具体的な観察と考察について『野生動物の苦しみ』内の記事を是非参照してほしい。

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